自らのアンコンシャスバイアスに気付くこと 「横行する選考・採用における性差別」参加レポート

東京医科大学の不正入試が発覚してからおよそ1年。今年6月には、同大の元受験生らが、大学に対して損害賠償を求めた訴訟の口頭弁論が行われました。性別や年齢を理由に受験者を差別してきたというこのニュースは、世間に大きな衝撃を与えました。

しかし性差別が横行しているのは、医学部入試だけではありません。あらゆる業界の採用現場でも同様に、暗黙のうちに性差別的な選考が行われているケースがあります。

今回は、そんな“入り口”における差別をテーマにしたシンポジウム「横行する選考・採用における性差別:統計からみる間接差別の実態と課題」のレポートをお届けします。


まずは、主催の日本学術会議 社会学委員会 ジェンダー研究分科会委員の上野千鶴子さんの挨拶から始まりました。

「性差別は女性だけの問題ではなく、男性が不当に上げ底になっているということを意味しています。集団としての“男性”が上げ底になる構造を私たちは維持・温存してきてしまいました。大学入試の実情は一体どうなっているのか? 教員採用はどうか? 民間企業は? 何事も事実を明らかにすることで対策が始まります。今日は各分野における統計的差別を明らかにしていきたいと思っています」

医学・医療の中における性差別

最初の報告者は、産婦人科医師として35年のキャリアを持つ対馬ルリ子さん。対馬さんは、2000年代初頭に日本女医会の理事を勤めていたときに、医学部入試における女性差別に関する噂を耳にして「まさかそんなことは」と思っていたそうです。

「医師国家試験合格者の女性の割合が徐々に増えていた2003年ごろ、すぐに女性医師が5割を超える時代が来るだろうと言われていました。しかし、そこから約15年間、3割から増えない状況が続き、女性の参画を阻む何らかの要因があるんじゃないかと疑問を抱くようになりました」

それをきっかけに発足したのが、女性医師・歯科医師・薬剤師で構成される「日本女性医療者連合(JAMP)」。対馬さんは理事を務められています。JAMPは、医学部入試におけるゲートコントロールについて声明を発表しています。

「医療の国家資格を持つ女性はたくさんいますが、私たちは一般の女性と同じように就労の困難を感じています。転勤を命じられたり、長時間労働が当たり前だったり、学会参加や専門性の追求についても大変な状況が続いていたりします。その上、管理職になるにはガラスの天井があります。一方で、家庭においては、妊娠出産や育児、親の介護など、全部を期待されて頑張っている人が多いです。でも時短勤務だと手術を執刀できなかったり、緊急手術に対応できなかったりということもあります。こういった女性のライフイベントなどを理由にゲートコントロールが行われているという実態が、女子学生の夢を砕き、女性医師の意欲を削ぐことになっていて、問題の本質だと思います」

朝日新聞の調査によると、2019年の医学部入試の男子の合格率は78大学の合計で12.61%、女子は11.62%。女子の合格率が1割を超えたのは、この7年間で初めてとのことです。

「ペーパーテスト以外にも面接で差を付けていたというデータも出ていますし、不正入試については、大学ごとにもっと詳しい検証を行うべきだと思います。医学部入試は医師としての採用試験と言っても過言ではありません。これからはもっと情報が公表され、公正な採用試験が行われるように変えていく必要があります」

民間企業の採用現場における性差別

続いては、民間企業における性差別について、日本女子大学人間社会学部教授の大沢真知子さんが発表しました。

「今の時代は、女性活躍に期待がかかっており、大手企業では女性採用が進んでいると思います。しかし、やはり多くの企業は男性中心に採っていて、半数以上は6割が男性、4割が女性となっています。特に、総合職に関しては女性が少ない状況です。2004年の採用率では男性3.1%、女性0.9%と明らかな差があり、2014年には男性3.3%、女性2.3%と増えてはいますが、倍率に男女差があります」

初期のキャリア形成に男女差が生まれる理由について、大沢さんは以下の4つを挙げました。

・仕事の割り振りに見られる男女差
・評価制度にもたらされるジェンダーバイアス
・長時間労働
・短時間勤務制度とマミートラック

「同じ総合職でも職務の割り振りに男女差を設け、それが賃金格差につながっていくケースがあります。また評価者に男性が多く、評価制度においてジェンダーバイアスが生まれることも。同質的な人間を高く評価してしまうという問題が発生しがちです。また、長時間労働は働き方改革でも重要な問題として捉えられていますね。最後に、短時間勤務制度とマミートラック。女性が育休後に同じ場所に復帰できずに昇進に縁がない部署にアサインされ、ストレスで辞めざるを得なくなったという話もたくさん聞きます。これらによって、管理職の女性比率が低くなっていると考えられます」

大沢さんは、キャリア形成の初期における性差別は女性の離職率を上げ、結果的には優秀な人材の浪費につながっていると話しました。

「正社員として勤務し、転勤あり、配置転換あり、残業ありという働き方がヒエラルキーの一番上で、そうじゃない場合には処遇の低下というペナルティが課される。つまり私たちは、私生活を犠牲にして働くことを良しとする価値観の社会に生きている。これを大きく変えていく必要があります。私たちがどういう社会を生きていきたいのか、正社員の働き方が問われていると思います」

教員採用の場における性差別

次は、山形大学学術研究院教授の河野銀子さんが、教員採用選考の実情について発表しました。教職は、戦前から女性が就くことができた職業の一つで、1975年には育休法が成立。特に小学校教員は1960年代頃から女性職化(女性割合が過半数)してきた、と河野さんは語ります。

「現在、国公私立合わせた初等中等教育機関における教員の男女比は、だいたい5:5です。ただ小学校や特別支援学校など、ケア的な要素が多く要求される学校では女性の割合が高くなっています」

2000年代半ば以降、選考試験の女性の競争率は男性より低く、採用者に占める女性割合も受験者に占める女性割合を上回っているのだそうです。これらの要因について、河野さんは以下の3つを挙げました。

1 男女共同参画を推進する政策の影響
2 教員の採用改善を推進する改革の影響
3 女性教員の(無意識の)割当制

「国の男女共同参画を推進する政策などが地方にまで行き届いていることが考えられます。それから、採用選考の基準・方法を公開するという教員採用選考試験の改善を進めてきたことも影響していると思います。3つ目は仮説ですが、採用側による女性割合の割当も考えられます。無意識のうちに、『小学校は6割くらい、中学校は半数程度の女性教員を配置しよう』といったものです」

最後に、今後の課題について河野さんは以下のようにコメントしました。

「選考側に女性が少ないという問題があります。地域にもよりますが、学校の管理職(教頭以上)のほか、民間企業のトップやPTA関係者が採点する側になることが多いといわれています。これらの女性の割合は低いです。また、主流文化に馴染む女性が多いという実態があるという声もきかれます。管理職は女性より男性が向いているとか、理系能力は男子が高いなどの考えを持つのは女性教員に多いという調査結果もあり、教育の場において今後の課題として挙げられると思います」

メディア業界における性差別

最後の報告者は、東京大学大学院情報学環教授の林香里さん。テレビやラジオ、新聞といったメディア業界は、華々しいイメージがあると同時に、長時間労働など過酷な就労環境という印象がとても強いです。そんなメディアの現場にも、女性の就労者が非常に少ない、と林さんは話します。

「現在、新卒採用では、多くの社は5割ほど女性を採っていると聞いています。一方で、民放もNHKも新聞社も管理職の女性割合が少ないのが特徴です。やはり男性が優位な職業だと言えます」

「スタートした時は、男女の給与額はほとんど変わりません。しかし、賃金構造基本統計によると、30代半ばをすぎると、男性と女性との給与の差が開くという統計があります。なので、新卒採用の方にインタビューすると『うちの社には待遇差別はありません』と言われるのですが、最初は同じ条件でも、やがて出産育児介護など環境や条件の変化によって大きな男女格差が生まれていることがわかります。また、メディアの待遇序列には、男性が優遇されるジェンダー序列とともに、シニアの方がジュニアよりも給与が高いという年齢序列も存在します」

そんなメディア業界において活躍できる女性が少ない理由について、林さんは「女性側の過剰適応も一因だ」と言います。

「ジェンダーはジャーナリスムの内容に影響するかというと、実は論争があります。記者はジェンダー基準よりも“記者基準”でニュース選択をしていると言われます。要するにファクトは一つだから、それをきちっと書くのが優秀な記者であり、男も女も関係ないと。これが厄介で、そもそも『事実』ということばこそ、権力の側、つまり男性たちから見て都合よく使われてきたことが多く、記者は積極的に問い返していかなければなりません。メディアに埋め込まれた男性性に基づく価値観に対して、女性たちが過剰適応してしまっているリスクがあります」

アンコンシャスバイアスとアファーマティブアクション

後半のパネルディスカッションでは、報告者の4名に加え、上野千鶴子さん、株式会社people first 代表の八木洋介さん、ジャーナリストの治部れんげさん、横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院教授の江原由美子さんが参加し、会場からの質問に回答。司会は、東京大学大学院教育学研究科教授の本田由紀さんが務めました。

本田さんは、今回のシンポジウム全体を通して浮かび上がったキーワード「アンコンシャスバイアス」と「アファーマティブアクション」について言及しました。

「今日のテーマは、入り口における女性差別ということで、入学や採用の場における性差別となっています。一つの募集に対して、どれだけの女性が応募してくるか、そして応募してきた中から誰を選ぶかという基準の部分で、アンコンシャスバイアスが作動している実情が見えました。東京医科大の件は、明らかな性差別で合格基準が歪められていましたが、実際には差別があってもここまで公にならない事例も多いと思います。例えば採用基準が“人間力”とかモヤッとしたよくわからないものだった場合『だからあなたの能力は低い』と言われると、受けた側はNOと言えなくなります」

「さらにアファーマティブアクションの問題も絡んでいて、『男性差別だ、能力のない女性を入れるのか』という声が上がってくることがあります。この“能力”が指すものの中に“男性性”という権力が入り込んでしまった場合、解決は容易ではありません。皆さんのお話を伺って、法体系やシステムの問題、意識や規範の問題など、両側面から変える努力をしていく必要があると思いました」

無意識なバイアスによって生まれる“入り口”での性差別。日本では「長時間労働ができる=能力がある」など、評価制度そのものが歪められている現場がまだまだ多く、それによって優秀な人材が第一線に立てなかったり、仕事を辞めざるを得なかったりする現状があります。これは、個人レベルや業界レベルの問題ではなく、日本の将来にとって解決を急ぐべき問題だと思います。

今回のシンポジウムでは、医療業界、教育業界、メディア業界、民間企業の採用現場の事例について学びましたが、その他の業界においても同様の性差別が横行しているのは想像に難くありません。大学や企業など、力を持つ側が意識を変え、構造を変える必要があります。まずは誰もが自分の中のアンコンシャスバイアスに自覚的になることが重要だと感じました。

Written by あやな(デジタルチーム)

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