女性のストリートハラスメントの経験を伝える、ロンドン発のフォトジャーナリズムプロジェクト「Cheer Up Luv」

カメラに向けて、強く、真っ直ぐな視線を向ける女性たち。
彼女たちの写真に並ぶのは、公的空間で受けたストリートハラスメントの経験のストーリーだ。

Mimi

「Cheer Up Luv」は、独学で写真を身につけたロンドン在住の写真家Elizaさんが始めたフォトジャーナリズムプロジェクト。女性が経験したストリートハラスメントのストーリーを、ハラスメントを受けた現場を再び訪れて撮った写真とともに発信している。撮影現場は、地下鉄の車両内、バー、駅のプラットフォーム、バス、音楽フェス、混んでいる道など、さまざまだ。女性が日常的にハラスメントを受けていることともに、どこでハラスメントに遭ってもおかしくないことを物語っている。

Elizaさんが目指していることは二つ。ストリートハラスメントの問題をより多くの人に知ってもらい、それが当たり前とされている社会に対抗し、変化を起こしていくこと。そして、女性が自らのストーリーを取り戻し、エンパワーされるようなプラットフォームを提供することだ。

「女性には、ストーリーをシェアすることでエンパワメントされたと感じ、より強くなったと感じて欲しいです。彼女たちのストーリーによって他の女性が触発され、ストーリーを共有し続けて欲しいと思っています。また、お互いを支え合い、女性が経験することをちゃんと理解しているオンラインコミュニティを築き続けていきたいです。そして、ストリートハラスメントの深刻さについて教育し、伝え、関心を高めることによって、政府や個人が行動を起こすことに繋がることを願っています。同じくらい大事なのは、セクハラについて人々に語りかけ、態度を変えることです。セクハラについて語ることに対するスティグマを拭い、被害者非難と※スラットシェイミングをなくし、男女の対立構造ではなく、みんなが団結することで前に進みたいと思っています」

2017年1月に友だちの写真を撮ることから始まったこのプロジェクトは、瞬く間に国際的なメディアに取り上げられ、2018年には国連人口基金(UNFPA)とコラボし、スリランカで撮影するまでに至っている。

Karine

見知らぬ男性からの「元気だしなよ、お姉ちゃん」という言葉

プロジェクトの名前は「 Cheer up, luv 」という表現からきている。これは「元気だしなよ、お姉ちゃん」というような意味で、Elizaさんが実際にそのようなコメントをかけられた経験に基づいて名付けたという経緯がある。

「このプロジェクトを『Cheer Up Luv』と名付けたのは、2017年始めに、道を歩いていたら見知らぬ男性にまさにその言葉をかけられたからです。それ以前も『笑顔を見せてよ(Smile)』、『元気だしなよ(Cheer up)』、『笑えばもっとかわいいのに(You would look so much prettier if you smiled)』などを耳にしてきました。もっと若かった頃もこういうことを言われていたけど、慣れてしまっていて気になりませんでした。でも、2017年にこの言葉をかけられたとき、私の中で何かが変わったんです。抱えきれないくらいの感情が押し寄せてきました。怒りを感じると同時に、自分はハッピーに見えないんだという罪悪感が押し寄せてきて、自意識過剰になりました。同じ文脈で女性が男性にそういう言葉をかけることはないのに、なぜ男性が私にそういう言葉をかけることが許されるのか、疑問に感じ始めました」

2017年初めにハラスメントに遭ったあと、Elizaさんは女友だちとハラスメントの経験を共有しあったという。しかし、男友だちには、キャットコール(見知らぬ人に路上でかけられる性的な言葉や音)のようなストリートハラスメントが「褒め言葉」ではないことを説明しなければならなかった。

「今まで撮影した全ての女性に共通していることは、日々経験するセクシュアルハラスメントが蓄積されて、自分がどんどんすり減っていくことです。『Cheer Up Luv』と名付けたのも、この表現が氷山の一角でしかないことと、女性がどれだけ日常的にハラスメントを経験しているかを見せたかったからです。小さいことから大きいことまで—『笑顔を見せてよ』と言われることから、身体的に攻撃されることまで—全て根は同じということを伝えたかったからです」

ハラスメントを経験した空間を取り戻す

撮影するときは、まず女性とお茶をしながら話し、お互いをちゃんと知り、ある程度信頼関係を築いてから撮影することを心がけているという。

「私が撮影する大半の女性が、ストリートハラスメントの経験について誰にも話したことがありません。このプロジェクトに参加してくれる女性は、とても個人的なトラウマの経験を共有しているので、撮影現場では出来るだけ安心してもらえうように心がけています。堅苦しい撮影ではなくて、二人の友だちが遊んでいるような感覚になるように努力しています。全ての撮影を公的な空間で行うので、観客ができてしまった場合は心地悪くなってしまうこともあるため、この事前のステップは重要だと思っています」

プロジェクトを始めた当初は、ストリートハラスメントについてもっと知ってもらうことだけを視野に入れていたというElizaさん。しかし、多くの女性と話し、プロジェクトへの参加者が増えるうちに、女性たちがエンパワーされるプロセスにもなりうることを知った。参加した女性からはとてもポジティブな反応が多く、ほとんどの人とは撮影が終わった後も連絡を取り続け、友だちになるという。

「当初は、このプロジェクトがどれだけパワフルなものになるか想像もつきませんでした。ハラスメントを経験した空間を取り戻すことによって、ネガティブな経験をポジティブな経験に変えることができることを知りました。自分の環境によって恐怖や無力感を感じたりすることがありますが、Cheer Up Luvでは環境によってエンパワーされることを目指しています」

Tatyana

写真という手法を選んだのは「女性たちのまっすぐな視線を前にして、彼女たちのストーリーから目を逸らすことはできないと思ったから」

独学で写真を学んだElizaさんは、プロジェクト開始当時はオートフォーカスの35mmカメラで撮影していたが、今は中判カメラで撮影するようになり、スキルは確実に上がっているという。なぜ、写真という手法を使っているのか。

「写真を使おうと思った理由は、女性たちの真っ直ぐな視線を前にして、彼女たちや彼女たちのストーリーから目を逸らすことはできないと思ったからです。私が大切にしてきたことは、声を上げる機会を女性に提供することと、彼女たちがハラスメントを経験した場所に一緒に行くことです。女性たちは、カメラのレンズを通して写真を見ている人たちを見据えて、ハラスメントに遭った空間から直接、経験を伝えています。ストーリーを語っている女性を直接見ていると、そこから目を逸らして忘れることが難しくなります」

男性に対する「セクシズム」だという人もいる。でも、そういう人はいつでもいますから!

国際的なメディアにも取り上げられ、Instagramでも1万7000人以上のフォロワーを持つCheer Up Luv。Elizaさんの周りや、社会からはどんな反応があったのだろうか。

「社会からの反応は、ポジティブなものが多いです。もちろん、フェミニズムに反対する人からはネガティブな反応がありました。Cheer Up Luvが男性に対する『セクシズム』だという人もいます。でも、そういう人はいつでもいますから!全体的には、激励の反応がとても多いです」

Elizaさんは、周りにいる男性の態度も含めて人々の意識は確実に変わってきているという。

「イギリスでは公的空間でのセクハラに対する意識が高まってきていて、これまで以上の女性が通報しています。ロンドンだけでも、過去5年間に公共交通機関における性暴力に関する通報が90%増えていて、これは#MeTooムーブメントだけでなく、Cheer Up Luvを含むいろいろなイニシアチブが大きな役割を果たしていると思います。女性たちから、性暴力を届け出たときの交通警察や職員の反応が改善したという連絡もたくさんもらいました。以前は、交通警察も警察も、セクハラに対応するためのスキルを持っていなかったり、トレーニングを受けていませんでした」

「過去1年間で素晴らしい変化も起きました。大きな成功事例のひとつは、アップスカーティング(スカート中盗撮) を違法にしたジーナ・マーティンさんのキャンペーンです。私は、2017年のRefinery29の#StopSkirtingTheIssueでアップスカーティングのフォトキャンペーンを担当しました。ジーナと一緒にキャンペーンに参加できたことと、実際に法改正を目にすることができたことは、とても誇りに思っています」

社会を変えていくことには、終わりがない。だからこそ、疲弊しないためにも、小さな成果から大きな成果をコミュニティと一緒に祝い、支え合い、歩み続けていく必要がある。

「ただ、まだやるべきことはたくさん残っています。スリランカを訪問したことで、それを確信しました。セクハラに対するスティグマ、恥、被害者非難が根強い地域はまだ世界中にあり、これを変えていかないといけません」

Makoto

日本でも撮影したElizaさん、印象に残ったことは?

Elizaさんは、日本でもCheer Up Luvの撮影をしたことがある。そのときの印象は強く残っているのだそうだ。

「東京で女性たちに会って写真を撮ることができたことに感動しました。日本では、ストリートハラスメントについて公に語ることがタブーとされていることを知っていたので、彼女たちが私に経験を共有してくれたことにとても感謝しています。東京で出会った女性たちの誠実さと勇気に心から感銘を受けたと同時に、彼女たちのストーリーに衝撃を受けました。また日本に戻って、もっと長期間滞在して、たくさんの女性に話を聞くことができたらとても嬉しいです」

今後もワクワクするようなプロジェクトが盛りだくさん

現在は、メキシコで撮影した写真をInstagramで発信中だ。夏頃にも、新しい企画が発表されるという。

「いま進行中のワクワクするようなキャンペーンやプロジェクトが夏頃に発表される予定です。楽しみにしていてください! 今後も、Cheer Up Luvのプラットフォームを引き続き大きくしていって、いろいろな国を訪れ、世界中の女性のストーリーを伝えたいと思っています」

筆者あとがき

私も、普通に暮らしているだけなのに急に降りかかってくる性的な言動を受けて、どんどん自分が小さくなり、まさにElizaさんが表現したように「すり減っていく」感覚を味わうことがある。公的空間に存在しているだけで、何でこんな目に遭わないといけないんだろう、と。Cheer Up Luvの空間を自分のものにすること、取り戻すことはエンパワメントになる、というところに私は特に共感した。私たちは常に空間を生きているけれど、誰もが平等に空間に生きているわけでも、全ての人のために空間がデザインされているわけでもない。「この空間から私は排除されている」と感じたことがある人はいると思う。ハラスメントに遭った空間を再び訪れ、古い経験を新しい経験で塗り替え、経験を語るということは、見知らぬ人に定義されてきた自分の経験を取り戻すことになる。

Cheer Up Luvは女性に対するストリートハラスメントに焦点を当てているが、女性以外もハラスメントを受けることはあるし、ジェンダーに基づくハラスメントだけでなく、人種、宗教、障がいなどに基づくハラスメントも、もちろん存在する。もし、ハラスメントを受けている人を見かけたら、安全な場合は、「3つのD」を使って介入をするという手もある。

読者の皆さんも、ぜひCheer Up Luvをフォローしてみてください。

Cheer Up Luvをフォローする!

Cheer Up LuvのInstagram
https://www.instagram.com/cheerupluv/

Cheer Up LuvのWebサイト
http://www.cheerupluv.com

ElizaさんのWebサイト
http://elizahatch.com

※スラットシェイミング=社会的に適切と考えられている性的な規範に従っていないと思われる人(特に女性)を非難すること。女性のセクシュアリティの支配にも繋がっている。例えば、性経験が豊富な女性は「軽くて汚い女」で恥じるべきだという考え・コメントや、肌を露出している女性は性暴力にあってもしょうがないという考え・コメントなど。スラットシェイミングに対抗するための「スラットウォーク」も各国で開催されてきた。

Written by Moe

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